まだ体が慣れていないせいもあって、夜勤の二連ちゃんはこたえる。その二連ちゃんの朝を迎え、あと3時間もすれば解放されるというときに事は起きた。起床介助の時だった。男性の入居者と女性の入居者、お二方はアルツハイマー型認知症だ。
■男性入居者
布団がごそごそ動いたので居室に伺い声かけした。起き上がりを介助し、両手を掴むやいなや、彼はその手強く握りかえしてきた。さらに僕の腕を掴んできて「お前、隠しただろう!俺は知っているんだ!」「お前、いい加減なことするな!」「お前、ここにいられなくしてやる!」など攻撃的な口調で言ってきた。そしてほとんど力の入らないその両手で僕の頬を平手打ちした。というか、なでた。彼が僕に対して怒っていることに間違いない。
僕自身、初めてのシーンに直面しどう対処していいのかわからず、はらわたが「少し」煮えくりながらも、穏やかな口調で「僕が何を隠しましたか?わからないので教えてください」と言うと「まだわからないのか!」と言われ、ますますどうしていいのやら・・・。このまま接触を続けても彼の怒りはおさまらないだろうと思い、朝食までまだ時間もあったのでもう少し眠っていただくことにした。
15分ほどして再度居室に伺い、声かけした。そうとう眠そうな顔をしていた。先ほどもそして今も、彼は覚醒しているようにも見受けられるし、あるいは正気のようにも見受けられる。攻撃的な口調になるし、僕の声かけに対して穏やかに応えてくる。「もう少しお休みしますか?」と声かけすると「うん」と応えた。あとは早出の職員に委ねた。
■女性入居者
先日も書いた方だ。先日以上にスイッチが確実に入っていた。あるいはこれが彼女の正常な状態なのだろう。彼女の1年前を知る女性職員に聞いたところ、男性を徹底的に拒否し、女性職員でさえ当時そして今も手に負えないときがあるそうだ。
起床介助のため居室に伺うと表情がこわばっていた。声かけするとその反応も穏やかではなかった。衣服への着替えを始まると抵抗と拒否はますます強いものになっていった。「私は女なの!どうして男のあなたにやってもらわなきゃならないの!」「私はあなたなんか大嫌い!」「誰かいないの!」「もうやめてちょうだい!」
ここまで拒否され抵抗され起床介助しなければならいのだろうか?と疑問に思いながらも、この業務を残してしまうと早出の職員のそれでなくても多い業務を増やしてしまうことになるので、「ほかには誰もいませんよ。」「僕もあなたが嫌いですよ。でもこれだけやらせてくださいね」と言いながら起床介助させていただいた。この状態で義歯の装着は不可能なので早出の職員に委ねた。
この気の滅入った状態で夜勤を終えるのだろうか?と思っていた矢先、もうお一方起床されていない男性の居室へ声かけに伺った。最後の最後で救われた思いがした。
彼は前立腺を患っておりそのため頻尿で、トイレは常に見守りと介助が必要な方だ。ただタイミングが悪いと介助を拒否されてしまう。タイミングが良いと「ちょうど良いところに来てくれました。ありがとうございます」と言ってくれる。最近になってようやくこのタイミングを掴めてきたので拒否されることがなくなった。
彼はいつもリハパンを着用している。しかし、居室へ伺ったその時、パジャマもリハパンも脱いでいて下半身が露出の状態だった。「○○さん、パンツ脱いじゃってどうしたんですか?その格好じゃいい男も台無しですよ。お手伝いしますからパンツ履きましょうよ」と声かけした。
「いつも心配してくれてありがとうございます。どうしてそんなに私のことを心配してくれるんですか?私の心配なんかより自分の心配してください」こんな言葉を聞いて思わずじ〜んとなってしまった。そして言葉を返した。「僕は○○さんのこと好きですから、もっとお手伝いさせてくださいね。お安いご用ですから僕のお手伝い受けてくださいね」彼の笑顔に心底救われた思いがした。
いくら机上でいろんな事例を学んでも、実体験にはかなわないだろうと痛感した夜勤だった。現場には生の教科書がある。
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